あおむろひろゆきのてくてく子育て日記〈第22話〉「木漏れ日の中で」
はじめてのきょうだいに、お姉ちゃんの心はちょっぴり複雑
その頃、あなたのおかあさんは一人で病院にいました。点滴をして、色々な数値を測ったりして、手術の瞬間を待っていました。そんな時でも、あなたのおかあさんはおとうさんやおねえちゃんの心配をしていました。
その昔、あなたのおとうさんが絵を描く自信を無くしてしまい、もうやめようと思った時におしりを蹴り上げてくれたのは、おかあさんです。あなたのおかあさんは、ずっとおとうさんの味方でした。そのおかげで、現在のおとうさんがあります。
あなたのおねえちゃんが生まれてからは、何をする時でも自分のことは後回し。いつもあなたのおとうさんやおねえちゃんの心配をして、家族を支えてくれました。
そして手術を目前に控えた今ですら、おとうさんとおねえちゃんの心配をしています。
あなたのおかあさんは、そんな人です。
秋と冬の境目。
冷たい風に踊るイチョウの葉。
カタカタと揺れる自転車のペダル。
病院の待合室に優しく差し込む木漏れ日。
そんな日に、あなたは生まれました。
病室が全部で9つしかない小さな病院で、あなたは生まれました。
静かな病院に、あなたのか弱い泣き声が響いたのを、おとうさんは聞き逃しませんでした。ちなみにその時、あなたのおねえちゃんはイチゴジュースを飲むのに夢中でした。
あなたを初めて見た時、あなたのおねえちゃんは嬉しくて言葉にならないといった感じで、おとうさんの腕の中でバタバタと踊っていました。おとうさんのお気に入りのセーターを引っ張ったりするので、首元がビロンビロンに伸びました。おとうさんは落ちそうになるおねえちゃんをグッと抱きかかえたまま、あなたの顔を覗き込みました。あなたはとてもかわいい寝顔をしていました。
あなたのおねえちゃんが生まれたのは、もう3年前のことです。おとうさんはすっかり赤ちゃんとの触れあい方を忘れてしまっていました。恐る恐る、あなたの手に指を絡めてみました。あなたは力強くおとうさんの指を握りました。おとうさんは思わず「アーッ」と叫びました。
しばらくして、おかあさんが手術室から運ばれてきました。
最後は病院の先生達とおとうさんで、おかあさんの身体を担いでベッドに運びました。
神妙な雰囲気だったけど、おかあさんが「重くてすんまへんなあ」と言った瞬間、みんな思わず笑ってしまいました。病室の空気が一瞬にして、明るくなりました。
いつだって太陽のような存在のおかあさんと、ちょっと頼りないおとうさんと、泣き虫で優しいおねえちゃん。それがあなたの家族です。
あなたは、こんな日に生まれました。
おとうさんも、おかあさんも、おねえちゃんも、ずっとずっとこの日を待っていました。
多くの人にとっては何でもない、私たちにとっては特別に大切な日。
それは空気の穏やかな、とても天気の良い日でした。
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